少年とファミコン
僕の家にファミコンがやってきたのは小学校4年生の時だった。
それでもゲーム機が手に入ったのは嬉しかった。
ゲーム機をくれたのは僕の叔父だった。
僕の叔父は『がさつ』な人間そのものだった。
いきなり電話が来て「もうファミコンいらねぇから、お前にやるよ。送るからよ。」
ガチャ…プープー…
そしてファミコンが我が家にやってきた。
ソフトは将棋とかテニスとか数本入っていた。
かなり地味なラインナップだが、唯一惹かれたドンキーコングをやりこんだ。
ある日、叔父が連休を取って家にやってきた。
「おう、ファミコンやるか」と言ってテレビの前に鎮座した。
叔父は冒頭でも書いたように『がさつ』な人間だ。
がさつのスペシャリストなのだ。
例えばファミコンではソフトを交換するときに
インジェクトと呼ばれるレバーを奥に押してソフトを取り出さなければいけないのだが
がさつな叔父はレバーを無視して手でそのままソフトを引っこ抜く。
ゲームが上手くいかないと本体を蹴り「ンパーーーーッ」というバグ音をリビングに鳴り響かせた。
当時の少年たちにとってバグ音は闇夜をつんざく悪魔の雄たけびに等しかった。
「壊れちゃうよ!」と言っても「このファミコンは俺がお前にやったんだっ!俺の自由だろ!」で終了だ。
そんな折、チャンスが来た。
叔父が家に来た二日目、一通りのファミコンソフトに飽きた叔父はビールを飲みながら
「何でスーパーマリオがねぇんだよ。ファミコンつったらスーパーマリオだろ。金やるから買ってこい」と言い出した。
僕はこの機を逃さなかった。
「わかった。買ってくるよ。」と母親と一緒に家を出た。
僕はゲーム売り場に着くなり店員さんに「ゲゲゲの鬼太郎ください」と言った。
欲しかったのだ。
家に帰って紙袋に入ったソフトを叔父に渡すと
「おい!スーパーマリオだって言ったろ!なんだこりゃ!スーパーマリオって言ったろ!!」
と大人げなく大騒ぎしだした。
僕は心の中で笑っていた。
叔父は僕にゲンコツをしたあと、背を向けて『ゲゲゲの鬼太郎』をプレイし始めた。
「なんだよこれ・・・つまんねーの・・・スーパーマリオつったろ・・・」
と、時折つぶやいていた。
ゲンコツは痛かったが、欲しかったゲームソフトが手に入り
しかも叔父に一矢報いることができた、ある日の夕暮れ。
僕にとっては良い思い出だ。
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